「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.20

このページで使用している画像、文章は「株式会社 扶桑社」の了承を得て転載させていただいております。
「新しい住まいの設計」

1995年8月号

(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)

軟弱地盤は局所的に震度が大きくなる。建物だけの防災策は無駄

神戸は坂道の町です。背後に六甲山系が迫っているため、阪急神戸線のあたりまでは山を駆け下りるような急勾配の斜面がひな壇状に造成され、そこから勾配が緩やかになってだらだらとした坂道が海岸まで続きます。

地震動によって家屋の被害が最も大きかったのが、そのだらだらと下っていく海岸平野と呼ばれる低地に立地している建物であることは、前回のレポートでも指摘しましたが、今回は個別の事例にもとづいて、より具体的に検討してみることにしましょう。

たとえば芦屋市内を例に見てみると、山手町と呼ばれる高級住宅地が六甲山麓の高台(地形分類では「台地」に相当する)にありますが、ここでは例え古い木造の在来工法であっても、倒壊している家屋は見当たらないのに対して、同じ芦屋市内だというのに、高台から低地へと下ってきた大原町あたり(地形分類では「緩扇状地」)では、全半壊している家屋が軒並みといった感じで集中しているのです。

※山手町内でも、まったく倒壊家屋がなかったわけではありません。自転車ではとても上り下りできそうもない急坂の途中にこの町は位置していますが、実地に歩いて検分した限りでは、地盤が軟弱であったためというよりは、斜面の造成自体に問題があって、擁壁が破壊されたり地割れが起きたために、家屋が破傷を被ったという事例がいくつかあります。全体としては整然とした街並みの中にポツンとその家屋だけが半壊していたりするわけです。すなわち、地形的に高台で地盤は良好であるにもかかわらず、人為的な土木工事の甘さが災いしたということです。

さて、その大原町をさらに詳しく見てみると、大原町の中にも数種類の地形が混在しており、それぞれの地形ごとに歴然といって言いほどの被害の差異を指摘することができます。

場所はJR東海道線の芦屋駅の北東。JR線と阪急神戸線に南北を区切られた300×500メートル四方の狭い範囲に、扇状地、緩扇状地、台地の下位面という3種類の地形が並んでいます。高低差で比較すると台地の下位面が高く、扇状地、緩扇状地、の順で低くなりますが、地形と地形の境は非常になだらかな坂道で連結しており、そうと気づかずに歩けば10分足らずで通りすぎてしまうような起伏です。

緩扇状地というのは、もともと窪地(谷筋)に六甲山系から流れてきた微細な岩くづが堆積した地形で、ほとんど海沿いの低地といってもよいような場所です。勿論、地盤は軟弱で、おそらく揺れも激しかったに違いないのですが、ほんの100メートルしか離れていないのに、台地の上では、よほど老朽化している家屋を除けば軽微な被害ですんでいるのに対して、緩扇状地にさしかかった途端に数棟単位で全壊しているのです。

建物自体の構造として、筋かいや壁量が不足していた家屋の被害が大きかったことが各方面で指摘され、阪神大震災を教訓に、自分が住んでいる建物の簡易耐震診断を勧めるパンフレットなども出回っています。しかし、まったく同様の条件下の建物でも地形によって被害に差が生じることや、耐震診断の採点表そのものが、「良い」、「やや悪い」、「非常に悪い」という地盤の良し悪しで採点に開きを持たせるなど、建物だけを対象とした防災策では改善しきれないということが、もっと強調されてもよいように思います。