「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.12

このページで使用している画像、文章は「株式会社 扶桑社」の了承を得て転載させていただいております。
「新しい住まいの設計」

1994年12月号

(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)

相談内容

埼玉県 北埼玉郡 土井貴男さん(仮名・40歳)


埼玉県北部に住んでいます。最近新聞で埼玉県北部は地盤沈下が激しいと読みました。我が家は大丈夫かと心配でたまりません。


埼玉県北埼玉郡栗橋町に住む土井貴男さんは、半年ほど前新聞を読み、急に不安になってしまいました。というのも、埼玉県北部の地盤沈下が全国でも有数の数値を記録しているとの記事を読んだからです。特に自分の家がどうということではないのですが、近所を散歩していると、家の基礎にクラックが入っているのを見かけたり、道路のコンクリートの亀裂が気になっていました。わが家もそのうち地盤沈下でどこかにひずみがくるのではないか、1年前に新築したばかりの土井さんは毎月10万円近くのローンを払いながら、今のうちになんらかの対策を講じなくてもよいのかと、イライラをつのらせています。

回答

地盤の沈下には大別して2種類の沈下があり、局所的に見られる「不同沈下」と広い範囲で発生する「広域地盤沈下」とがあります。

「不同沈下」というのは、軟弱な地盤の上に建物を載せたときに、その重みで地中の水分が横に逃げて行き、水分の失われた体積の分だけ地盤が沈下して、次第に建物が傾いていく現象を指してそう呼ぶのですが、建物などの重いものが載らない限り沈下は起こりません。ですから狭い範囲の建物ごとに沈下が発生するわけで、対策も個別に講じられるのが普通です。

それに対して「広域地盤沈下」というのは、土中の水分が失われることに変わりはないのですが、何か重いものが軟弱地盤に載るかどうかにかかわりはなく、ある地域一帯の地盤が沈下する現象をいいます。

道路であれ畑であれ、地盤の上に何も載らないにもかかわらず沈下が起きてしまうのですが、その原因は地下水の汲み上げに有ります。それも地域全体の沈下を誘発するほどの莫大な量の揚水なのです。

大都市圏では、宅地の開発が次第に中心部から遠くの地域へ推移していますが、急激な人口の流入に対して、受け入れ側の自治体では、公共施設の整備が追いつかず、いきおい上下水道の敷設が後手にまわるという悩みをどこでも抱えています。下水については宅内で処理する浄化槽の設置を義務づけることもできますが、上水道については生死にもかかわる問題であるために自治体としても放っておくわけにもいけません。いきおい公共事業の一環として井戸を掘り、そこから地下水を汲み上げて住民に供給することが、手地な方法として選択されるのです。

地中には地下水を蓄えている地層(水脈)があり、井戸はその水脈から水をまかなうのですが、実は水にも需要と供給のバランスがあり、供給されるよりも多くの地下水を汲み上げてしまうと、横方向に流れてくる水脈だけでは足りずに、途中の地層の水分まで吸い上げられて、垂直方向の地層全体にわたって水分が絞り出されてしまうのです。しかも水脈は単独で存在するのではなく、網の目のように発達しているので、ある範囲の土中の水分が強制的に排水されてしまえば、付近一帯の地盤が沈下してしまうのです。

埼玉県の北部というのはまさに近年になって東京のベッドタウンとして発達した地域であり、生活用水ばかりでなく工業用水や農業用水の需要もあるのですが、上水道を主要河川から水道本管に引き込むには多額の費用と時間が必要となることから、地下水に頼らざるを得ない地域でもあるのです。

沈下の大きい所では、年間に40ミリもの地盤沈下を記録している栗橋町やそれに隣接する鷲宮町、大利根町、古河市(茨城県)、野木町(栃木県)など軒並み30ミリ以上の広域地盤沈下が毎年のように継続発生しているのです。

国土庁では例年春ごろに広域地盤沈下地域のワースト5などというランキングを発表するので、土井さんはその時の新聞をお読みになったのでしょうが、ある意味では「公害」ともいえるこのような沈下に対しては、個々人で対処できることではなく、地下水の汲み上げそのものを中止するほかに有効な手立てはありません。実際に江東区をはじめとする東京の下町低地では、かつての高度成長期に4メートルもの地盤沈下によって海抜0メートル地帯が出現する事態となって、たまりかねた東京都ではいっさいの地下水摂取を禁止する措置に出て、ようやく沈下を終息させたという経緯もあります。

土井さんの場合は、既に家を建てられていますが、これからの方はせめても建物の基礎については、沈下の修正作用を見込むことのできる「べた基礎」を採用するか地盤改良などを講じておいて、たとえ沈下が発生したとしても、不同沈下という最悪のシナリオだけは回避しておくのが望ましいといえます。


教訓

広域地盤沈下に対しては個々人で対処できることはありません。
しいていえば、地下水の汲み上げはしないこと、建物は「べた基礎」にすることが望ましいでしょう。