「あなたの土地は大丈夫?」知らないと損をする地盤のこと vol.26

このページで使用している画像、文章は「株式会社 扶桑社」の了承を得て転載させていただいております。
「新しい住まいの設計」

1996年2月号

(解説・監修 ジオテック株式会社 住宅地盤相談室)

全半壊していなくても、それだけでは安全と言えない阪神大震災後の家

兵庫県南部地震のニュースもとぎれがちの昨今ですが、学術的な調査報告については、ようやく結果がまとまって、各種の学会、団体から報告書が多数発表されるようになってきました。
かねて、住宅と地盤の関係について最大の関心をもって注視してきたのですが、「緊急報告」や「中間報告」の段階では漠然としか伝えられなかったことの詳細が明らかになりつつあるので、その一端を紹介したいと思います。

まずは建物の構造について。全半壊したのは老朽化した在来構法の木造住宅であったという説については、やはり表現が粗雑すぎたようで、外見上は同じ在来構法であっても、その新旧を問わず、構造的にしっかりと設計施行されていたかどうかが明暗を分けています。

建物の荷重を支えることのできる重要な壁を「耐力壁」といい、窓やドアなどの構造的にあてにできない壁に対して、耐力壁の最低量は建築基準法でも規定されているのですが、実際に建築される際には、数字合わせでかろうじて基準法を満足させてはいるものの、本来の目的が見失われて、どのように耐力壁を配置すれば強度が増すのかを考慮していない事例が多く、壁のバランスを考慮していない住宅は、在来や鉄骨などの構法にかかわらず、さらに建築年数が新しいものでも倒壊しているのです。

極端な例では、耐力壁の絶対量は基準法に照らしても少ないのにバランス良く配置された住宅には大きな被害が出ていないのです。すなわち1階と2階の耐力壁をいかに配置するかが、その建物の耐震性能を左右するわけで、このレベルの話は、ひとえに設計者の腕しだいということができます。

次に地形と被害の相関性について。これまでの地震レポートのなかで、低地の地盤ほど軟弱で、振動を増幅させやすい、ということを強調してきましたが、その後の個別の調査が進むにつれ、六甲山麓の丘陵斜面の造成地でも広範に被害が発生していることがわかってきています。

木造住宅等震災調査委員会の報告書(H7.10.9発行)によれば、「長田区前原町1丁目および房王子町1丁目の355棟のうち、269棟が撤去済みまたは撤去予定となっており、これは全体の76%である。これらの大多数は地割れや地盤の崩壊に起因するものと思われる。また、その多くは、基礎に鉄筋が入っていないものであり、鉄筋コンクリート造の基礎とすべきことを示唆している」とあります。

おそらく震災直後は、敷地内に立ち入った調査までは困難で、外見上は全半壊していないと考えられていた建物のなかにも、相当数のダメージがあったのではないのでしょうか。

低地の軟弱地盤とは違って、丘陵部は一般に地盤が良好であることが多いのですが、問題は地盤の性状ではなくて、神戸のような急峻な斜面をひな檀状に造成した場合には、その造成の良しあしが被害の大きさを決定しているのです。すなわち、ずさんな造成工事をしていれば、いくら耐力壁をバランス良く配置したところで、足元の地盤が動いてしまうのですから、ひとたまりもないわけです。

土を留めるべき擁壁が崩壊したり前にせり出したりすれば、庭先の土が地すべりして建物の下が足元をすくわれる形になり、支えを失って傾くなり引き裂かれてしまいます。万が一、建物が居住できる状態で残ったにしても、擁壁がいつ倒れるかもしれないところで、安心して住めるわけもありません。いつまたやってくるかもしれない地震の恐怖のため、我が家に戻れず、仮住まいを続けていらっしゃる被災者も多いのです。